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東京地方裁判所 昭和50年(ワ)608号 判決

原告 シミズ工務店こと 清水浩爾

被告 株式会社錦隆商事

右代表者代表取締役 久高好恵

右訴訟代理人弁護士 坂本健之助

同 小西輝子

同 稲山恵久

主文

本件訴はいずれもこれを却下する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一当事者の申立

一  原告

被告は原告に対し金八、四六二、三四〇円及び内金一、二六八、三一〇円に対する昭和四九年七月一一日より、内金六、四一〇、三五五円に対する同年一〇月一一日より各支払ずみまで日歩一〇銭の割合による金員、内金七八三、六七五円に対する昭和五〇年二月六日より支払ずみまで年六分の割合による金員を支払え。

訴訟費用は被告の負担とする。

との判決及び仮執行の宣言

二  被告

主文第一項同旨の判決

第二当事者の主張

一  原告の請求原因

(一)  原告は、昭和四九年四月一一日被告から東京都豊島区東池袋一丁目三九番七号ニュープリンスビル(後に三恵ビルと改称)の改装工事を、請負代金三四二四万円、被告において請負代金の支払を遅滞したときは日歩一〇銭の割合による遅延損害金を支払う等の約で、請負った。

(二)  その後原、被告間の合意により、右工事内容を一部変更し、これに伴い右請負代金を金一、九九六、八七〇円だけ増額した。

そして、原告は右工事を昭和四九年一〇月一〇日以前に完成し、被告に引渡した。

(三)  原告は、前記改装工事の追加工事として、被告より前記ビル六階改装工事を代金一、二六八、三一〇円の約で請負い、これを昭和四九年五月末日完成して被告に引渡した。

(四)  原告は、前記(一)の改装工事の追加工事として、被告より同ビル裏階段、変電室、ボイラー室関係工事等を代金二〇〇万円の約で請負い、これを昭和四九年八月一〇日完成して被告に引渡した。

(五)  原告は、前記(一)の改装工事の追加工事として、被告より同ビル電気、配管工事等を代金二、四一三、四八五円の約で請負い、これを昭和四九年八月一五日完成して被告に引渡した。

(六)  原告は、昭和四九年一月一九日被告より同ビルエレベーター新設工事を、請負代金一、五七六万円(支払期日、契約時金六、六八五、〇〇〇円、工事中二回に分けて金三〇〇万円づつ、完成引渡時三、〇七五、〇〇〇円)、被告において請負代金の支払を遅滞したときは日歩一〇銭の割合による遅延損害金を支払う等の約で、請負った。

(七)  原告は右工事を昭和四九年七月二〇日完成し、被告に対し右引渡を提供のうえ前記請負残代金六、〇七五、〇〇〇円の支払を請求したが、被告は右支払をしない。

(八)  よって、原告は被告に対し次の金員の支払を求める。

1 前記(二)の請負代金増額分、前記(三)、(四)、(五)の各追加工事代金、合計金七、六七八、六六五円

2 前記(七)の請負残代金六、〇七五、〇〇〇円に対する昭和四九年九月一四日から同五〇年一月二〇日までの間の約定利率日歩一〇銭の割合による遅延損害金七八三、六七五円

3 前記(三)の追加工事代金一、二六八、三一〇円に対する昭和四九年七月一一日より、前記(二)の請負代金増額分及び同(四)、(五)の追加工事代金合計六、四一〇、三五五円に対する昭和四九年一〇月一一日より各支払ずみまで約定利率日歩一〇銭の割合による遅延損害金

4 前記2の遅延損害金七八三、六七五円に対する本件訴状送達の翌日である昭和五〇年二月六日より支払ずみまで商事法定利率年六分の割合による遅延損害金

二  被告の本案前の主張

被告は、原告との間で請求原因(一)、(六)の各請負契約(遅延損害金の約の点を除く。以下、本件各請負契約という。)を締結したが、右各契約に関しては、工事の未完成、遅延、瑕疵、追加工事費用等につき紛争があり、被告は、原告の本訴請求に応じることができない。

ところで、本件各請負契約は、いずれも中央建設業審議会決定の民間建設工事標準請負契約約款(以下本件約款という。)によるものであるところ、右約款一九条において次のとおり定められている。

「この契約に関し、甲(被告)と乙(原告)との間に紛争が生じたときは当事者は建設業法による建設工事紛争審査会のあっせん又は調停によって、その紛争を解決する。

前項のあっせん若くは調停をしないものとし、又はあっせん若くは調停を打切った場合においてその旨の通知を当事者が受けたときは、その紛争を建設業法による建設工事紛争審査会に附し、その仲裁判断に服する。」

したがって、本件については原被告間に建設工事紛争審査会のあっせん、調停に付する旨の訴訟上の合意及び仲裁契約が成立しているから、本件訴は不適法である。

三  本案前の主張に対する原告の主張

本件各請負契約が本件約款によるものであり、右約款一九条に被告主張のような定めがあることは認めるが、原告は、右契約締結当時本件約款中に右の定めがあることを知らなかったものであり、また、右のような定めがあっても、それは原告の訴権を排除するものではない。

第三証拠≪省略≫

理由

原、被告が中央建設審議会決定の民間建設工事標準請負契約約款(乙)(本件約款)に依拠して本件各請負契約を締結し、右約款第一九条には被告主張のとおりの文言による約定があることは、当事者間に争いがなく、右事実は≪証拠省略≫によっても認めることができる。右事実によれば、本件各請負契約に関する本件各紛争については、原、被告間に、建設業法による建設工事紛争審査会のあっせんまたは調停に付する旨の訴訟上の合意及び同会の仲裁判断に服する旨の仲裁契約が存在することが明らかである。

原告は、本件各請負契約締結当時本件約款中に右第一九条の約定があることを知らなかったと主張するが、≪証拠省略≫によれば、本件約款内容を明記した文書が本件各請負契約証書に一体として添付されていることを認めることができ、かつ右第一九条による訴訟上の合意及び仲裁契約が不合理なものと解する余地は全くないから、原告において本件約款に依拠して本件各請負契約を締結する意思を有する以上、その個々の約定たる右第一九条の内容を知らなかったとしても、右条項による訴訟上の合意及び仲裁契約は原被告を有効に拘束するものと解される。

したがって、本件訴は、いずれも訴訟条件を欠き不適法といわねばならないから、これを却下し、訴訟費用につき民訴法八九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 黒田直行)

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